ギタリスト田口尋夢による「ウィスパリング・シリーズ」作品解説
ギタリスト田口尋夢による、新ギター・シリーズ『ウィスパリング・ギターⅠ/II/III』のリリースを記念し、カバータイトル全6曲各曲の解説を公開!
ギタリスト田口尋夢さんに、本シリーズのテーマ『ウィスパリング(ささやき)』を根底にした編曲過程、原曲に対するリスペクトの思い、さらに演奏に関する秘話など多くを踏まえ語っていただきました。
テーマを体現するために言葉を基軸に
本企画のお話しいただいた段階でノートに思いつくままに選曲や言葉などを書き込みました。言葉は編曲や演奏する際の基軸になっていると思います。
※下記今回実際にノートに書き記したキーワードや言葉など。
・静寂
・安らぎ
・死、眠り、沈む
・静けさの中に秘めた強さ
・寄り添う音
・モノクローム
・悲劇、共感、同調
使用する楽器は11弦ギター
使用する楽器を11弦ギター中心でいこうと決めました。11弦ギターは通常のクラシックギターに低音弦がさらに5本追加されていて、普通出せない低音や共鳴による倍音の響きがより奥行きを出すことが出来るので、本企画の世界観をフィックスするのに最適です。チューニングも曲ごとに変えて演奏しています。
調性にもこだわりました。基本的に映画音楽は原曲と同じ調にしています。トラディショナルな曲は歌唱によってさまざまな調で演奏されますが、そこは前人の演奏は参考にせずに楽曲と編曲が上記のイメージに一番合うと感じた調を選びました。
収録曲について
1. A Time For Us
ニーノ・ロータの作った音楽は悲しみと救いが見事に両立していると思います。原曲には途中軽快な舞曲調の間奏が入りますが、今回の企画テーマにはそぐわないと思いカットしました。前奏はオリジナルで、2度の和音のほどよい不響感はギターのアルペジオのもつ儚さが出たかなと気に入っています。メロディーが入ってからもそれは続きます。中間の単旋律のメロディーはモノクローム=時間(生)の停止を表現しています。
「死がふたりを分かつまで」という言葉がありますがこの物語は「死がふたりを結ぶまで」と結果的にあってほしいと思う作品。
2. Interstellar
打合せの段階からご提案いただいてテンションが上がった楽曲です。なぜならこの映画の大ファン(ベスト3に間違いなく入る作品)だからです。演奏したくないわけがありません。
ですがそれとは裏腹にどうやってギター一本でこの壮大な世界観を表現するのか悩みに悩み編曲しました。11弦ギターの低音と、ハーモニクスとの音程差を上手く使いディスタンスを表現できたのでは、と思っています。
3. Playing Love(愛を奏でて)
この曲が使われているシーンは映画史上最も美しいMV的シーンだと思います。
ピアノの透明感には到底かなわないと思い、ギターならではの魅力が活きればと思い編曲を進めました。映画のシーンでは美しい女性からのインスピレーションのような音楽ですが、今回は腕の中の赤ちゃんにそっと微笑みかけるようなイメージで演奏しています。
4. Schindler‘s list(シンドラーのリストのテーマ)
この曲は作曲家と同姓同名のジョンウィリアムスという著名なギタリストが録音している素晴らしい編曲があるのですが、原曲の調性にこだわりたかったということもあり、あえてその楽譜は使わずに1から編曲をしてみました。
映画は凄惨そのもので非常に観るのも辛い3時間ですが、戒めとして必要な遺産であり、製作したスティーブン・スピルバーグ監督には畏敬の念を感じずにはいられません。私たち音楽家の使命もリスナーの日常からの解放はもちろんですが、作品を通して、過去の伝承と現在への警鐘という使命もあると思っており、この度演奏する機会をいただけたことに意義を感じて録音しました。
シンドラー(※同名映画・主人公)には到底およびませんが、微力でも誰かひとりでも救うきっかけになればと思い演奏しました。
5. Scarborough Fair
「一人静かに唄うように、最も静かで音数を少なく」とオーダーを受け悩みに悩んだアレンジでした。物理的な音数の少なさをこれまでの曲と競うことが本質ではないと考え「精神的な静けさと音数の少なさ」と定義し進めました。
その結果、武満 徹(※日本を代表する現代音楽家)の音楽のような(到底およびませんが)世界観がこの曲に付加できたと思っています。
また同じ旋法を使う「怒りの日」を副旋律として用いてみました。グレゴリオ聖歌からの影響もあります。
6. The Parting Glass
これも悩みに悩んだ曲で、編曲を始めるまでに時間を要しました。イメージが固まってからは驚くほどあっという間に完成しました。今回のウィスパリング・ギターの中でも特別気に入っている編曲です。
いただいたオーダーで「葬送」というキーワードがあったので、曲の冒頭とエンディングは現実的に、中間の低音やハーモニーが豊かなパートは回想的なイメージで作っています。
海と大地の香りを感じるウィスキーと共に聴いてもらうと泣けてくるかもしれません。
――多くの公演やイベントに出演される中、後進の育成や指導にあたる講師としてもご活躍されている田口尋夢さん。
その多岐に渡るご活躍の場を、今後も楽しみにしています。ご解説ありがとうございました!
(記:メディア事業部)
シリーズ好評につき、第四弾以降の制作も現在進行中!
第四弾目以降は、ファン待望のオリジナル曲での配信リリースを予定しています。田口尋夢さんの魅力を更に深く堪能できるオリジナル曲を近日配信予定。(Coming Soon!)
田口尋夢(Hiromu Taguchi)
-Profile-
神奈川県藤沢市生まれ。
幼少よりヴァイオリンを学ぶ。 10代になるとエレキギター、ベース、ドラムを始め、地元のライブハウスで活動。 ‘02年、専門学校国際新堀芸術学院に入学。 ほぼ同時期にクラシック・ギターに出会い、独奏スタイルに傾倒していく。 同年、全日本ギターコンクールにて第一位を獲得。翌年、JGA音楽祭に出演し喝采を浴びる。
その後在学中にプロ団体である新堀ギターアンサンブルに入団、また新堀ギターフィルハーモニーオーケストラ公演にテデスコのギター協奏曲のソリストとして出演。 卒業後は新堀ギターアンサンブルの4代目コンサートマスターに就任。 ドイツ、オーストリー、韓国、シンガポール、アメリカ、イタリア等、数々の海外公演を大成功に導いている。
また、Danrokのリーダーも務め、ライブを開催すれば満員の大人気グループに押し上げた。 作編曲でも活躍し、新堀ギターフィルハーモニーオーケストラ公演やギタリスタス日本等数多くの公演で演奏される。 中でも「女郎花」は映像と音楽のコラボレーションとして生まれ変わり、新たな芸術作品として話題を呼んだ。 また、母校である専門学校国際新堀芸術学院で後進の育成・指導にもあたっている。