【制作秘話】「森のバラッド」ギタリスト榊原氏が語る〜癒しとは?
余韻に込める思いとは?〜<前編>

『森のバラッド~ジブリソング・オン・ギター』は、アコースティック・ギター(ガット・ギター)のみでスタジオジブリの名曲をカヴァーした、あたたかく心に沁みるジブリソング・カヴァー集。

ロングセールスを記録している『夜カフェ~リラックス・タイム』でメロウなギターを聴かせた“癒しのギタリスト”榊原長紀さんが、2ヶ月半かけてジブリの世界観やガットギターでの“癒しの音”を追求した本作。

今回はご本人と制作プロデューサーの池田邦人さんに、制作秘話をうかがいました。

DSC_0008 今日のスペシャルゲスト。癒しのギタリスト、榊原長紀さん
惹かれる音や納得できる音を追及していたら、自然にヒーリング的な音色を出すようになっていました。昔はエレキギターやフォークソングギター、マンドリン等も弾いていましたが、スタンスのシフトチェンジを重ねることで、今はガットギターをメイン楽器として活動しています。独奏でのソロライブや、アコースティック編成でのライブへの参加、時には朗読のような表現の場でも演奏しています。

榊原さんにとっての「癒し」とは?


 —— 今回は癒しの音楽で有名なデラ社からの発売になりますが、榊原さんにとって「癒し」とは何ですか?

榊原さん:
僕は団地の1階に住んでいるのですが、芝生や木がたくさん植わっていて、その土や草のふっとした匂いに癒されます。「自然」のなかに身を置くことから感じる心地よさは、僕にとっては大きな癒しですね

自然に対して畏怖という恐れは抱きますが、自然は我々に不健全な恐怖は与えません。人間文明が生み出した理不尽さや歪みに距離を置くことができ、精神が調整されていくのを感じます。

そよ風に木の葉がそよぐ音や、虫の音など…心地よい自然音を聞いているときに自分のギターを爪弾いてみると、ギターの音が邪魔に感じることがよくあり、ギタリストとしてはショックを受けるほどです。

より優しく繊細に爪弾かないと、自然音の心地よさを壊してしまう・・・
こういう体験は、ギターの音色に宿る癒し力を育てる有効な練習法だと思います。”

編集部:
自然もそうですし、生活の中にある「癒し」をキャッチするアンテナがあるかないか、意識できるかできないかで違って来るのかも知れませんね。

余韻を連結させて曲を作っていく感覚

 —— 榊原さんの作品は余韻が特徴的ですが、どういう思いで演奏されていますか。

榊原さん:
僕自身「余韻」が好きで、大切にしています。音が消えていくとぼんやり出来ますし、スピードが落ち着いて来ると、“ふわっ”と癒されるものがあります。うるさくなく感じるためには間を多く取る。余韻が大切な要素であることにある時気が付きました。

ギターは「持続楽器」に対して「減衰楽器」といい、一番はじめに音が出て、あとはその音が衰退していく楽器。

例えるなら眠りに落ちていく感じです。そこに音を乗せるということは、ポチョンと水が滴るようなそんなイメージでしょうか。

つまり曲とは、その時々の色々な音の“重なり”で出来ているのですね。余韻を連結させて一曲を作っていく感じです。

また余韻には、別の風景を思い出す何かがあります。静かな余韻のなかで、ひとそれぞれふっと思い出すシーンや匂いや音。

「導入」という意味合いが、僕の音にはあるのではないかと思っています。

池田プロデューサー:
『君と僕』という、榊原さんの“やりたいこと” “真の姿”が詰まったオリジナルCDを聴き、今回の開発のご相談をさせていただきました。

今回の『森のバラッド~ジブリソング・オン・ギター』は、まさにその「余韻」や「残響音」で、とても深い響きをまとった1枚になっています。

 ——本作品の制作依頼を受けて、どう思われましたか?

榊原さん:
ガットギターの独奏で構成された僕のソロアルバムを聴いてくださったプロデューサーの池田さんが、「このような世界観でジブリカバーをやってみたい」と声をかけてくださり、とても光栄に思いました。

独奏というのは指運びがとても難しくなりますが、爪弾きのひとつひとつが丸裸にされますので、音に込めた弾き手の想いはダイレクトに伝わっていきます

ただジブリの曲はいずれもフルサイズ、もともとは歌詞もある曲ですので、独奏だけで表現するのは難しいと思いました。

DSC_0003 言葉をひとつひとつ選びながら、丁寧にお話してくださる榊原さん

全15曲、最後まで聴いてもらえるように

——制作上こだわった点、難しかった点はどんな点でしょうか?

榊原さん:
収録曲は全15曲。フルサイズ15曲を独奏だけで聞き手を飽きさせないつくりにするのは、無理だなと…。

となると複数パートでの多重録音をすることになるのですが、ただ伴奏パートとメロディパートのアンサンブルでつくると簡単に出来上がってしまう分ありきたりな作品になってしまうことを、危惧しました。

まずはすべての曲に対して、どこまで独奏で表現できるかチャレンジしてみました。

表現や和音を変化させたり、音域を変えてみたり、考えられるだけのことをしてみた結果、1曲まるごと独奏で完成した曲もありますし、ほんの少しだけニュアンス的な2パート目を加えた作品も。イントロからすべて多重奏になった曲や、表現をグッと盛り上げたく最終的に8パートまで重ねた曲など様々に出来上がりました。

できる限り“手作り感”が欲しかったので、クリックを使わず感情に委ね演奏し、テンポの微妙な揺らぎを極力活かすようにしました

揺らいだパートに別のパートを重ねることはとても難しく、たった8小節を丸一日掛けても完成させることが出来ない、そんなことも何度かありましたね。

また、ひとつの楽器のひとつの音色だけで表現したことで、パート数の多い場面でも、全体的に独奏に通じる感じに仕上がりました

こうした工程を踏みながら、自分を内観状態に向けるようにしながら、少しでも琴線に触れて来る音を探し続けました

爪弾く指先と自分の心の深い部分をリンクさせるために、精神を開放させて、ピュアな部分を露出させないと泣ける音は紡ぎだせない。

とても無防備で傷つきやすい状態ですので、とにかく家に籠り切って作業し続けました。




次回の後編記事では、作品に込められた“聴きどころ”やガットギターの演奏に込められたメッセージなど、ご紹介させていただきます。お楽しみに! >>> 後編記事を読む

森のバラッド〜ジブリソング・オン・ギター

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