ボサノバのある生活~吉田和雄さんインタビュー

カフェや雑貨屋さん等で、お洒落なBGMとして私たちの生活にすっかり溶け込んでいる音楽、ボサノバ(ボッサ)。

5月27日にリリース予定『リラックス・カフェ~ベスト・オブ・ボッサ・サウンド』は、デラのボッサ音源(2015~16年録音)より、30曲を厳選した2枚組コンピレーション・アルバムです。

このアルバムのリリースにあたって、これらの音源のサウンド・プロデューサーであり、日本のボサノバ界の草分け的存在である吉田和雄さんに、ブラジル音楽に傾倒されたきっかけや、ボサノバの魅力、楽しみ方についてお話しを伺いました。

お囃子から始まったボサノバへの道

私は、地元(埼玉県川越市)のお祭りでお囃子をやっていたこともあるくらい、幼い頃からリズム楽器が大好きでした。

高校時代は、ジャズ好きの兄の影響で深夜のラジオ音楽番組を聴くようになり、ある時、いつもと違うリズムが流れてきて……それがとても面白く、何だろうって。

今思えば、それらは、今でも名盤として残る素晴らしいボサノバ音源の数々でした。
それで、ボサノバや、そのルーツであるサンバの音楽をいろいろ聴き漁ってみると、私が幼い頃やっていたお囃子と近い感覚を覚えました。

その後、よし、やってみよう!と思い立ち、大学時代にドラムを習い始め、レコードをたくさん聴いて自分流に学んでいくうちに、ブラジル音楽に夢中になっていきました。

ブラジルのミュージシャンが演奏で来日し始めていた頃、「マシュ・ケ・ナダ」を作曲したジョルジ・ベンジョールが1972年に渋谷にきたときは、飛んで観に行きましたね。嬉しくなって彼に近づいて話をさせてもらいました。

また、私自身の演奏活動としては、当時オープンしたばかりの赤坂のボサノバレストランで来日ミュージシャンと共演する機会を得たことや、四ツ谷の老舗「サッシペレレ」での活動も大きなきっかけとなってブラジルのミュージシャンとの交流が深まっていったように思います。

私はその頃、「Spick & Span」という自身のバンドを組んでいました。当時はまだ、ブラジル音楽をやる日本のバンドは少なかったので、来日ミュージシャンからお呼びがかかって共演すると、(こちらは好きで練習しているので)バッチリ合うんですね。

そうすると、それがミュージシャンの間で評判となって、さらに輪が広がっていく。そういう好循環もありましたね。

ブラジル・ミュージシャンとの交流を重ねて

私は、これまでに、200枚ほどのブラジル録音に携わってきたのですが、その中で一緒に仕事をしてきたブラジルのアーティストとは、様々な思い出があります。
日本で共演して友達になったホベルト・メネスカルは、私にとって初めてのブラジル録音(1987年)でお世話になった人です。

また印象的だったのは、『リラックス・カフェ~ベスト・オブ・ボッサ・サウンド』でも演奏を聴かせてくれているピアニストのフェルナンド・メルリーノ。
彼と最初に出会ったのは、J-リーグが始まった頃に頼まれた応援歌の収録現場でした。

フェルナンドのアレンジはとても面白いし、演奏も大変素晴らしいのです。
このフェルナンドとの出会いは、先に触れた、ホベルト・メネスカルとの出会いがきっかけでもあるんです。

このように、ご縁がつながっていくことは、とても嬉しいことですね。

ボサノバの魅力

ボサノバは、ポルトガル語で、「新しい傾向」を意味するように、1950年代後半に、ブラジルの若きアーティストたち(ジョアン・ジルベルト、アントニオ・カルロス・ジョビン、ヴィニシウス・ジ・モライス等)によって、サンバをルーツにジャズやクラシックのハーモニー感覚を取り入れた当時新しいスタイルとして生まれた音楽です。

演奏する側からすると、「枠にはめられた中で自由を求める」のがボサノバの魅力とも言えます。
リスナー的には、リズムやサウンドが心地よく、ボーカルが入っていてもポルトガル語の母音で終わるソフトな響きが、BGMとしても邪魔にならない。

最近の日本では、カフェや雑貨屋さんのBGMでよく耳にするようになり、一般的にも生活の一部になってきていますよね。

吉田和雄

収録現場の雰囲気づくり

リラックス・カフェ~ベスト・オブ・ボッサ・サウンド』に収録されている音源は、2015~16年の音源を集めたものです。
録音現場では、ブラジル時間と言うのでしょうか、朝のスタート時間やお昼の休憩時間が押してハラハラすることもありましたが、そういった時間を有効活用してデータのバックアップをとるなど工夫することで、限られた時間の中で、とてもリラックスして良い収録ができたと思います。

頼りになるピアニストたち

編成は、ピアノ・トリオによる演奏がメインになっています。
主体となるピアニスト、アドリアーノ・ソウザ、フェルナンド・メルリーノ、フィリッピ・バーデン・パウエルの3人は、とても頼りになる存在です。

アドリアーノのピアノは、ちょっと硬質なクリスタルのようなタッチが魅力。
フィリッピは、父にギターの巨匠・バーデン・パウエルを持ち、弟もギタリストという音楽一家で、非常に高い音楽性を持っています。

そしてもう一人のフェルナンド・メルリーノは長年の付き合いで、私の要求をとても良く理解してくれる人でした。
音もリズムも安定している上に、ジャズを良く知っていて、ピアノでのメロディーの歌い方は素晴らしかったです。

大げさに言えば、つまらない曲でも、彼がカバー(アレンジ)することで、すごく良くなるんです。
そういう意味で、とても頼りになる存在でした。
残念なことに、フェルナンドは2021年に亡くなられました。彼には今でも感謝の気持ちでいっぱいです。

思い出に残るテイク

リラックス・カフェ~ベスト・オブ・ボッサ・サウンド』の2枚目に収録されている「マシュ・ケ・ナダ~ショ・ヴィ・シューヴァ~何て素晴らしい」は、特に思い出に残るトラックのひとつです。

ブラジルのミュージシャンなら誰もが知る曲をメドレーでつなげたものです。
当然、彼らは楽譜を見なくても演奏できるくらいなので、アレンジのアイデアはフェルナンドに一任しました。

結果、期待通りにすばらしい演奏を聴かせてくれました。
楽しい様子が伝わってくるし、私もすごくリラックスして収録できたテイクのひとつですね。

初心者からジャズ・ファンまで楽しめるボサノバ

私がサウンド・プロデュースをする時、ミュージシャンには、アルバムのコンセプトやアレンジのイメージをあらかじめ共有するようにしています。

ミュージシャンが盛り上がりすぎて演奏が暴走してしまうと、原曲のイメージを大きく覆してしまい、演奏する側と聴く側に、温度差が生まれてしまう。

特にヒーリング・ミュージックを手掛けるデラさんのアルバムに関しては、そういったことを常に心に留めています。

この『リラックス・カフェ~ベスト・オブ・ボッサ・サウンド』は、ボサノバ・ファンの方はもちろん、普段あまり音楽を聴かない方にも、ご自宅でBGMとして楽しんでいただける作品だと思っています。

気軽に楽しめる一方、とても素晴らしい演奏なので、オーディオ・ファンやジャズ・ファンの方にも、ぜひ聴いていただきたいですね。

 リラックス・カフェ~ベスト・オブ・ボッサ・サウンド

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ーーコロナが終息したら、再びブラジルに渡って音楽イベントをやりたいと夢を語る吉田和雄さん。
今後のご活躍も楽しみにしています。ありがとうございました。(インタビュアー、撮影:デラ制作部)

<Profile>

吉田和雄(よしだ・かずお)
埼玉県川越市出身。
ドラマーとして赤坂のブラジル・レストラン「コルコバード」でプロデビュー。
同時期に自身のバンド、「Spick & Span」を結成。ブラジル音楽に特化しての活動が来日ブラジリアン・アーティスト達の間で評価される。

プロデューサーとしては、小野リサを世に送り出し、初期の10作余りを制作。
また、南佳孝、ジョイス、ジョアン・ドナート、ワンダ・サー、カルロス・リラ、ケイ・リラ、ヴァレリア・オリヴァイラ等を手掛け、ブラジル録音だけで200タイトル余りを制作。

現在、「Toquio Bossa Trio(トキオ・ボッサ・トリオ)」、「PANDRUM(パンドラム)」、「Brass Brazil!(ブラス・ブラジル!)」等のバンドを率い、都内のジャズ、ブラジリアン・クラブなどに出演中。

2022年5月、過去にプロデュースしたボッサ音源をセレクトしたコンピレーション・アルバム『リラックス・カフェ~ベスト・オブ・ボッサ・サウンド』をリリース。

吉田和雄

取材協力:サッシペレレ(東京都・四ツ谷)
https://www.saciperere.co.jp/