特別エッセイ&プロモーション・ビデオ「スロー・ショパン~ピアノで聴く、15のピアノ・セラピー/豊田裕子」に寄せて
スロー・ショパン~ピアノで聴く、15のピアノ・セラピー/豊田裕子
なぜショパンの甘く切ないメロディはこんなにも私たちを惹きつけるのでしょう。。
ピアノという楽器を使って、その美しさと技術で最高峰の独創的な芸術を創りだした作曲家、ピアノの詩人ショパン。
その音楽は、繊細な音の動きで私たちが普段意識しない心の深い部分を照らし、寄り添い、そして心の内にある愛を音に置き換えて、私たちにそっと語りかけてきます。
私たちはショパンの音楽に美しい夢を見て、その中に自分自身を発見します。
ショパンはまた、祖国ポーランドの家族や友人を常に忘れなかったからこそ、それを聴く私たちにとって、心の故郷のように感じられるのかもしれません。
ショパンの音楽は私たちに、愛することを思い出させてくれます。
このアルバムでは、ショパンの数ある名曲の中から、最愛の人を想いながら書いたワルツとノク
ターン、ショパンがとりわけ好きだったという春の森からインスピレーションを得たロマンス、マヨルカ島の小鳥のさえずりを聞きながら書いたというプレリュード、友人の子供たちとの触れ合いから生まれたという子守歌など、ショパンの心の詩を12曲選びました。
ショパンの音楽の真髄に敬意を抱きながら、現代を生きる私たちの心に繋がるような新しい試みで、よりゆったりとしたテンポと一音を大切に、ショパンの心を表現するように努めました。
そして、ショパンの森から聞こえてきた音のメッセージもオリジナル曲としてさしはさみました。
ショパンの森の中を散策しているかのような自然音と共に、このアルバムからショパンの心の詩が皆さんに届きますように…聞こえてきますように…。
このアルバムを聴いてくださる皆さまへ
「スロー・ショパンに寄せて」のテーマにも書かせていただきましたように、なぜショパンの甘く切ないメロディは、
こんなにも私たちを惹きつけるのでしょう・・・
その答えは、残されたショパンの日記の中に見つけられるような気がいたします。
このショパンの日記の一節は、ショパンの音楽そのもののように私には感じられたので、ショッパンの日記から特に心に飛び込んできた一節を短く抜粋してお届けいたします。
「なぜわれわれは、自分を死骸に変えるためにこの惨めな人生をあくせくと生き抜こうとしているのだろうか。
ステュットガルトのあちこちの塔の時計は真夜中の時を告げる。
おお、この瞬間どんなに多くの人々が死骸となっていることか。
美徳のものも邪悪なものも、死者となれば同じだ!
なぜ僕は自分が役に立たない世界に生きながらえることをやめないのか。
自分が生きていて、誰に、どんな良いことができるのか。
愛する者たちよ。
僕自身の幸せのためでなく、あなた方が僕をどんなに愛しているか、僕は知っているから、死を望めないのならば、僕は生き抜くことを熱望する。
お父さん!お母さん!妹姉たちよ!
僕にとって最も大事な皆。
彼女は僕を愛しているか?本当に。
イエス、ノー、イエス、ノー、ノー、イエス—。」
(ショパンのアルバムより シュトゥットガルト 1831年9月8日より後 )
祖国から一人離れて、生と死に向き合い、家族、友人、恋する人を痛烈に想うショパンだからこそ、あのような甘く切ないメロディを書くことができたのかもしれません。
このアルバムの録音にあたって
このアルバムの収録で演奏させいただいたのは「至福のピアニシモ」と呼ばれるベーゼンドルファーのインペリアルモデルです。世界三大ピアノメーカーの一つであるベーゼンドルファーの、インペリアルモデルは、通常のピアノの鍵盤が88鍵のところインペリアルには97鍵あり、エクステンドベースと呼ばれる黒い鍵盤が特徴のピアノです。
現代のピアノの中でも最大の音域を持つこことで有名なこのピアノは、より深い響きを持ち、しかもピアニシモでこそ最高に美しい音色が出る表現力豊かなピアノです。
私にとっては、ピアニシモこそ演奏の命であると感じ、いかに美しいピアニシモを出せるかを常に探索し続けてきた今、ピアニシモの比類のなく美しい演奏家だったといわれるショパンの作品をこのインペリアルで演奏することができ、幸せな録音となりました。
私は、このアルバム最大のコンセプトである安らぎを表現したいと思い、美しいピアニシモと、一音を大切に、メロディをスローテンポで歌い、ショパンの心を表現するように努めました。
そして、企画の段階から製作中にわたって湧いてきたインスピレーションをもとに、新しいタイトルをつけ、また曲の合間にはオリジナル曲を差し挟みました。
アルバムがリリースされる8月終わりに私は、このウィーンの郊外にあるベーゼンドルファーピアノの故郷である工場を訪ねます。
マエストロたちの手によって命を吹き込まれ、産まれたばかりの完璧なピアノたちがウィーンの森の木々と一体になり、心地良さそうに呼吸をしているように感じられるピアノの理想郷のようなその場所から、指先を通って聴こえてくる音を皆さまにお届けできることを楽しみに、次回リポートをお届けしたいと思います。
Yuko Toyoda
Profile
豊田裕子(とよだ・ゆうこ)国立音楽大学卒業。2002年、ウィーンのコンチェルトハウスでデビュー。以後ウィーンフィルハーモニー管弦楽団首席奏者たちとの共演を皮切りに、ソリストとして国内外で活動を始める。透明感のある美しい音色と情熱的な超絶技巧、そしてショースタイルによるステージで新たなクラシック音楽の世界を創り出している稀なピアニストとして、今注目を集めている。
<商品情報>
全15曲/約65分
定価:¥1,800(税抜き)
商品番号:DLDH-1908
作曲・編曲・演奏:豊田裕子(piano)
試聴はこちらから>>スロー・ショパン~ピアノで聴く、15のピアノ・セラピー/豊田裕子