ホンネは直球?オブラートに包む?
「嘘」について、考えてみよう

ホンネは直球?オブラートに包む?「嘘」について、考えてみよう


今日4月1日は、平成最後のエイプリルフールの日です。

一年に一度、嘘が許される4月1日に、ユーモアのある「許される嘘」に苦笑いされたかたもいらっしゃるかもしれませんね。
SNSでよく見かけるのは、加工された画像付きの投稿とともに

「ついに恋人ができました!」
「実は結婚することになりました!」
「タワーマンションに引っ越ししました!」

このようなテンションが高めな、サプライズの報告がアップされます。
信じてしまう純粋で善良なかたもいらっしゃるのですが、まんまと騙された!と悔しがっても、許される嘘はジョークとして話のネタにもなるので、あまり非難されることはありません。

今回は「許される嘘」、「優しい嘘」について考えてみたいと思います。

「ホンネをオブラートに包む」日本人気質は古来から受け継がれている?

ホンネは直球?オブラートに包む? 「嘘」について、考えてみよう

 

たとえばあなたは恋人から別れを告げられる時に、正直に本心を言ってほしいですか?
それとも本心やホンネを少し、オブラートに包んでほしいですか?

「オブラート」とは、苦い粉薬を飲む時に、苦味を感じなくて済むように薬を包む透明な薄いフィルムです。
フィルムは胃の中で自然に溶けるので、カプセルと同じ役割をしてくれます。

言葉をオブラートで包む一例を、自分が相手に別れを告げるシーンであげてみます。

(ホンネ)「あなたが嫌いになった」
→(オブラート) 『あなたと私は価値観が違うみたい…』

(ホンネ)「他に好きな人ができちゃった」
→(オブラート) 『あなたとは別の生き方がしたいの…』

(ホンネ)「あなたとはもう会いたくない」
→(オブラート) 『しばらく自分だけの時間を過ごしたくなったの…』

耳に痛く、胸に苦い言葉もオブラートに包めば、とりあえず相手にとっても自分にとっても刺激を和らげることができます。

さて、別れを告げたり、告げられたりすることを、「ふる、ふられる」(拒絶する、拒絶される)と言ったりしますね。

では、ふられる、ということは何がどうふられるのでしょうか?

あかねさす紫野(むらさきの)行き
標野(しめの)行き 野守は見ずや 君が袖振る
(万葉集より)

7世紀、飛鳥時代に額田王が詠んだこの歌は万葉集に収められています。


紫草の生えた野を行き、標野を行きながら(標野の)見張りが見やしないか、いや、見てしまうでしょう。あなたが(私に)袖を振るのを
(万葉集より)

ここで振っているのは「袖」です。
太古では、袖を振る仕草は愛情表現。
袖を振るところを他人に見られることは、恋愛関係が発覚することにつながるため、それを額田王が心配している歌です。

愛情を伝える意味を持っていた袖を振る仕草が、どうして「拒絶」という意味で使われるようになったのかは、はっきりしていません。
いずれにしても、日本人は古来から愛情や拒絶を、言葉ではなく「袖」というオブラートに包んで表現してきたということですね。

「別れたい…」は、相手と自分を試したい時の「嘘」かもしれません

ホンネは直球?オブラートに包む? 「嘘」について、考えてみよう

ところでみなさんは狼少年のお話をご存知かと思います。
「狼が来るよ!」と人々を嘘で何度も扇動させた結果、信頼を失ってしまった少年のお話しです。
イソップ寓話の「嘘をつく少年」が狼少年の原形と言われています。
少年が嘘をついたのは、人々に注目してほしかったからだと筆者は感じます。

小さな子どもがお母さんの気を引きたくて「見て見て、指から血が出た!」などと言ってみたりするのと同じです。

淋しさから、自分に注目してほしい、反応してほしい欲求があるからつい嘘をついてしまう、という理由はみなさんにもお分かりかと思います。

淋しくて不安な時は今一度、大切な人に自分をしっかりと見てほしくなります。

そして、恋人に別れたい気持ちを告白する時は、自分が相手を試したり、自分自身を試しているのかもしれません。

恋人に別れを告白するときの心理状態には下記の3つのパターンが当てはまると思います。
  • 別れたい気持ちをオブラートに包んで伝えるときは、相手を傷つけないで終わりたいとき
  • 別れたい気持ちをオブラートに包まずストレートに伝えるときは、相手を傷つけて終わりたいとき
  • 別れるつもりはまだ完全ではないけれど、別れを告白することで相手の反応と自分の反応を試したいとき
この記事を読んでくださっているあなたの過去のお別れには、何番の心理状態が近かったでしょうか。

オブラートに包んだ「優しい嘘」は、「おもいやり」から生まれます

ホンネは直球?オブラートに包む? 「嘘」について、考えてみよう

オブラートは1902年に医師である三重県の小林政太郎氏が発明し、日本のほかイギリス・アメリカ・ドイツ・フランスでも特許を所得した製品です。
開発当時はジャガイモのデンプンを利用していたとのこと。

日本人は表現があいまいだったり、オブラートに包む傾向があります。
ですが、あいまいさは相手を傷つけないためのおもいやりです。

日本は「おもてなし」の文化が特徴的で、そのホスピタリティが海外の人々に人気があることは、有名です。
おもてなしは、労わりの心やサービスの心。
つまり、「おもいやり」の心がけです。

オブラートに薬や別れの言葉を包むことで、相手が受け取りやすくなる「おもいやり」の優しい嘘。

“良薬口に苦し”ということわざがあるように、別れを告げることは多少なりとも感情に影響を及ぼすでしょう。
ですが別れはお互いが自由になるための良薬です。

別れの場面はいずれにしても、終わりのドラマです。
相手が受け取りやすく、お互いがスムーズに未来をスタートさせるための表現を少しだけ、工夫してみましょう。

ちなみにオブラートは、37℃の体温で9分後に胃の中で溶けるそうです。
人肌は36℃〜37℃の柔らかい体温。オブラートに人の温もりが加われば、優しさが別れを包んでくれるかもしれません。