「やめる、変える」より『足して』いこう。
この夏、あなたが『足す』ものは?

この夏、みなさんは故郷やご実家に帰省されますか?
久しぶりに帰ると、懐かしい地元の風景が変わってしまって驚いたり、いつもの街角のお店がなくなっていたり…と、こんな経験をされたかたもいらっしゃるかもしれません。
街の一角にマンションが新しく建設されただけで、雰囲気が大きく変わってしまいます。
特に高いビルが建つと、見えていたはずの空の面積が減って、記憶にある景色とは異なるために違和感を覚えます。たぶん、新しいものが古いものに混ざりあった風景に、まだ目が慣れていないからかもしれません、
そして古い住宅のエリアが高層マンションに変わってしまうと、そこが別な場所であるかのような錯覚を感じます。
近くにあるお店や道路そのものは変わらないのに、何かが足されただけで雰囲気が急に変わるのです。
「ミスマッチ」は時として不思議なインパクトをもたらす
「天地、夏冬、雪と墨」(てんち、なつふゆ、ゆきとすみ)この "ことわざ" を聞いたことがあるかたは、もしかしたら少ないかもしれません。
「天地、夏冬、雪と墨」とは、格差が激しい正反対のものを例えた "ことわざ" です。
語呂が良いこの "ことわざ" から思い出すのは、以前に都内の外資系ホテルに宿泊した際に、幸運にもエコノミールームからグレードアップの恩恵を受けて、眺めの良い角部屋で数日を過ごした時のことでした。

おしゃれな外資系ホテルの大きな窓から眺める、東京の景色は格別です。
そんなお部屋にせっかく宿泊したのですが、チェックインが深夜近くになってしまい、コンビニのおにぎりを食しながら、高層階の素敵なコーナールームから夜景を眺めました。
全面ガラス張りの窓辺には、本来ならワインボトルとモッツァレラチーズやピクルスのようなアペタイザー(前菜)がマッチしますが、ペットボトルのお茶とコンビニのおにぎりは、"ことわざ" と同じく差がありすぎてミスマッチでした。
ですが、かえってそれが印象に残っていて、今でもその夜の気持ちを時々、不思議な気分で思い出します。差がありすぎてインパクトを感じたからかもしれません。
浴衣姿の女性が手にしているものは…?
さて、話は変わりますが、夏の風物詩と聞くとみなさんは何を思い浮かべますか?鎌倉時代の吉田兼好の随筆「徒然草」では、夏は夜が素晴らしいと定義づけています。
夏の夜は月が美しかったり、月のない夜も闇夜に蛍が飛び交うさまが風情がある、と記されています。
なかなか現代では蛍を見かけることはできませんが、夏の蛍と同じくらいに夏の趣きを感じるのは、浴衣を着た女性ではないか…と私的には感じています。
浴衣姿の女性の、柔らかくまとめた髪と、浴衣の裾に見え隠れする足首は、白地に藍染めを施した涼し気な木綿の生地に映えます。
お祭りや夕涼みなど、そこに浴衣を着て団扇や扇子を手に添えた女性がいるだけで、"夏らしさ" を感じられます。
明治、大正時代の日本画にも、浴衣をまとった黒髪の女性は多く描かれていて、その手元には団扇や日傘を携えています。
ですが、「天地、夏冬、雪と墨」の現象が最近の浴衣姿にも見受けらるようになりました。
団扇や扇子の代わりに現代の浴衣姿の女性たちが手にしている物は何でしょうか。
それは、スマートフォンです。
お祭りに向かう女性たちが持っているのは、カメラとパソコンと電話がセットになった現代の神器です。
スマートフォンがないアクティビティは、現代ではうまく機能しません。
身体と活動とスマートフォンはまるで、セットになっているかのようです。
混ざり合い、新しく生まれるもの
では、スマートフォンが浴衣に似合わないかと言えば、どうでしょうか?浴衣姿の女性がもしスマートフォンを持っていても、そこに団扇や扇子もひとつ添えるだけで、一段と趣きが深くなるのではないでしょうか。

団扇や扇子のような、細い物を持つ時には自然に指先の仕草が柔らかくなります。
筆者の授業では、
やめる、変える、のではなく、
『足していくこと』を提案しています。
例えば女性らしくなるために、言葉遣いを変えるのではなく、女性らしさの感じられる言葉も時には使ってみることを日常に『足す』のです。
「そうだね。」と相づちを打っても良し。
時には「そうね。」と軽くうなづくことも良し。
どちらにもそれぞれの良さがあります。
新しい景色のように、新しいものが古いものに足されて混ざり合い、新たな調和が生まれます。
全国的に有名な、名古屋に本社がある珈琲店には、温かいデニッシュ生地のパンの上に冷たいソフトクリームが乗ったスイーツのメニューがあります。
この記事を読んでくださっているあなたも、もしかしたらそのメニューをご存知かもしれませんね。
熱いものに冷たいものを足した、格差の妙から生まれた人気メニューは、アイスクリームがパンの上でほどよく溶けながら混ざり合います。
こんな風に格差のあるものをプラスして、習慣を大切にしながら変化していくことをおすすめしています。
故郷の変わっていく風景のように、懐かしいもの古いものと、新しいものを足していくことで、新鮮なインパクトを感じることができるのです。
『あなたはこの夏を機に、何を足していきますか?』
「天地、夏冬、雪と墨」の意味合いを少し心に留めていただけると、あなたがこれから『足す』必要のあるものが見つかるきっかけになるかもしれません。