大人だったら、怒りは抑えるべき?
コミュニケーション上手な「怒り」の表現方法
季節は夏真っ盛りです。
ちょっと外に出るだけで汗だくになるほどの暑さの中で過ごしていると、いつもよりちょっと怒りっぽくなったり、イライラしやすくなったりしませんか?
今回は、「怒り」の感情について考えていきます。
大人だったら、「怒り」は抑えたほうがいい?
うれしい、楽しいことばかりの毎日を送れたら何よりですが、現実では腹が立つことだってあるものです。
例えば、仕事でも、同僚のミスを自分のせいにされたり、上司に理不尽なことで当たられたり…。
程度の差はあれど、きっと誰でも腹立たしさをおぼえるでしょう。
そんなとき、"大人だったら" 怒りをグッっとこらえてやり過ごすほうがよいのでしょうか?
結論からいうと、答えはNOです。
怒りの感情だって表現していいのです。
そうはいっても、大人であれば、感情のままに怒りをあらわすと人間関係がギクシャクしがちになることも経験済みでしょう。
それを避けたくて「こんなことで怒るなんて、大人げない」と、意識的に、あるいは無意識的に怒りを打ち消そうとする方もいらっしゃるのではないでしょうか。
けれど、「喜怒哀楽」という言葉にも「怒」が含まれているように、怒りは人間が持つ自然な感情のひとつです。
怒りを表現しないでいると不満がつのり、それがストレスにつながったり、ときには攻撃に転じることもあるのです。
「怒り」だってアサーティブに表現できる!
では、怒りの感情はどのようにあらわせばよいのでしょう。
ここで鍵となるのが前回のコラムでご紹介した、自分も相手も大切にする自己表現「アサーション」です。
アサーティブであるということは、どんな自分もありのままでよいということです。
だから、怒りや悲しみといったネガティブな感情を持つ自分も肯定してOK。怒りたいときは怒ってもかまわないのです。
だからといって、前述したように感情のままにただ怒りをぶつけてしまうと、相手との関係がこじれる可能性もあります。
そこで心がけたいのが「アサーション」です。
いくつかのポイントをおさえれば、自分も相手も大切にしつつ、怒りの感情をあらわすことができるのです。
「怒り」を上手に伝えるために心がけたい3つのポイント
アサーティブに怒りを表現するための、3つのポイントがこちらです。
point1:怒りが大きくふくらむ前に、小出しにする
怒りの程度は、大きく以下の3段階に分けられます。- 弱い怒り(いやだ、怖い、同意できない、残念だ、困ったなど)
- 中程度の怒り(腹立たしい、不愉快だ、反対だ、しゃくにさわる、イライラするなど)
- 強い怒り(頭にくる、復讐してやる、はらわたが煮えくりかえるなど)
怒りの感情は、最初は弱い怒りから始まっても、相手に伝えずに抑え込んでいるうちにどんどんエスカレートしていきます。
そして、怒りが大きくなるほど、自分が何に対して怒っているのかがわからないといった、怒りをコントロールできない状況に陥ることもあります。
怒りを表現するときは、できるだけ弱い怒りの段階で「小出し」にしましょう。
ヒートアップする前であれば、自分の思いを上手に伝えやすくなり、また相手も耳を傾けてくれやすくなります。
point2:「"I"メッセージ」で「私」を主語に
「"I"メッセージ」とは、「私」を主語にした表現のことです。怒りをあらわす場合は「私は怒っている」「私はイライラしている」となり、怒りの感情が自分のものであることが明確になります。
「"I"メッセージ」の対にあるのが「"You" メッセージ」です。
こちらは「あなた」が主語になり、怒っているときのメッセージに当てはめると「あなたが悪い」「あなたのせいだ」と表現されがちです。
どちらのほうが好ましいかは、言われる側の立場となってイメージしてみるとわかりやすいでしょう。
もし「私は怒っているの」と言われたら、「なぜ怒っているの?」と聞くことができますね。
一方で「あなたのせいだ」と言われたら、ついカチンときてしまい、それ以上話を聞きたくないと思うかもしれません。
相手とのコミュニケーションの余地を残す意味でも、怒りの感情を伝えるときは「"I"メッセージ」を心がけてみてください。
point3:「DESC法」で気持ちを整理し、きちんと伝える
頭に血がのぼると、「頭にきた!」「とにかくイライラする!」といった感情にとらわれて、その理由を考える冷静さを失ってしまうことがあります。
けれど、怒りをあらわしつつも相手とのスムーズな関係を続けていきたいのであれば、自分の考えや気持ちを整理したうえで、きちんと伝えることが大切です。
そんなときに役立つのが「DESC(デスク)法」です。
<DESC法の基本ステップ>
- 事実を客観的に述べる(D:Describe)
- 事実に対する自分の主観的な気持ちを述べる(E:Express)
- 相手に望む行動、妥協案、解決策などを具体的に提案する(S:Specify)
- 相手の「YES」か「NO」の反応に対して対応する(C:Consequence)
つまり、「今、どういうことに、私がどういう気持ちをもっている。
だから、こうしてくれないかと提案する」というように伝えます。
一例として、共働き夫婦の間で夫が毎日の食器洗いを担当すると約束したのに、3日続けて食器洗いをしなかったときの妻の対応でみてみましょう。
<DESC法を使う前の会話>
なんで約束したのに今日も食器を洗っていないの?
約束を守れないなんて、あなたって最低だね。
スマホいじってる時間はあるのに。
私だって働いているのに、なんで私ばっかり家事しなきゃいけないの。
<DESC法による会話>
D:今日で食器を洗っていないの3日目になるね。
E:あなたが毎日忙しいことも知っているよ。
ただ、約束したことだから、きっとやってくれるだろうと思って期待していたんだ。
S:(スマホをいじっている夫に)それが一段落したら、洗ってくれる?
C:「YES(わかった)」の場合→ありがとう。そうしてくれると助かる。
「NO(できない)」の場合→じゃあ、今日は私が洗うから、拭いてくれる?
さらに「NO」の場合→じゃあ、家事分担についてもう一度話し合おう。
いかがでしょう。印象ががらりと変わったのはもちろん、自分の気持ちを伝えつつ相手の考えも大切にしたアサーティブな対応になりましたね。
このように、提案が受け入れられないこともあるので、複数考えておけば、新たな提案ができて、お互いの歩み寄りも可能になってくるでしょう。
DESC法は、怒りの感情をあらわすときだけでなく、交渉や頼みごとをするシーンなどでも役立つ方法です。そんなシーンが訪れたら、思い出してみてくださいね。
ストレスと同様に、怒りは長引けば長引くほど大きくなっていきます。だからこそ、小さなうちに対処することが大切です。
アサーティブな表現を意識しながら、怒りの感情と上手に付き合っていきたいものですね。